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セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

 ご無沙汰しておりました。
 7月24日、小学館より小説の単行本「ゲノムの国の恋人」が刊行されましたので、お知らせ致します。書き下ろしの長編です。


 タイトル通り、これはゲノムという人の遺伝情報の総体が関わってくる小説ですが、ものがたりは一種の往還記の体裁を取っています。主人公がある場所に往って還ってくる物語で、神話や叙事詩にも多くの類例があるところを見ると、人類のもっとも古い物語形式のひとつであるかも知れません。オデュッセイアなどは典型的な往還記ですね。
 とある研究者のタナカが、とある理由によりとある土地に赴き、ゲノムなる生命の書物を解読しようとするわけです。それは人体の設計図であるのみならず、この地上に初めて生命が誕生してから現在に至るまで、連綿と複製と変異が繰り返されてきた生命のアカシック・レコードでもあります。ただしこの解読は、高雅な趣味めいたものなどではなく、莫大なカネと大いなる権力とが入り交じって生じるに至った理想の花嫁捜しの一環なわけであります。
 さてもタナカは、この使命に応えることができるのか? 長い旅を終えて帰途に就くことができるのか? そもそも彼の帰り行く先とはいずこか?
 そのようなものがたりです。


 とはいえ長いものがたりを簡潔に語るのはなんとも難しいことで、しかも書いた当人の身びいきゆえか、俯瞰しようとすればそれだけ細部が目に飛び込んできてしまって手に負えないとしみじみ思うばかりです。せめて、この物語にちりばめられたあまたのできごと、たとえばサンディエゴの学会であるとか横浜本牧の華僑の別邸であるとかおそろしく達者な日本語を操る外国人であるとか、川の中州の租界であるとか大小さまざま数限りないトーチカであるとか7人の美しい姫君たちであるとか、ヴァンサン・ダンディの交響曲であるとかジョージ・マハリスのポップスであるとか精緻極まるポリフォニーであるとか、ゲノム多型であるとか染色体構造変化であるとか次世代型シークエンサーであるとか、有能な兵長殿であるとか老いさらばえた元帥閣下であるとか偉大なる崇敬の交わる先であるとか、突如の闖入であるとか大洪水であるとかアンゲロプロスの映画であるとか、そういったものにささやかに心引かれるところがおありでしたら、なにとぞ、お手にとっていただければ幸いです。


 夏の夜長に、旅先のお供に、間近い秋の備えに、ぜひどうぞ。



ゲノムの国の恋人ゲノムの国の恋人
(2013/07/24)
瀬川 深

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segawashin

Author:segawashin
2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
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