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セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

 作品を世に放つというのは実におそろしいことで、書き手が小汚い自室や深夜のカフェで汗だくになりながら綴っていた文章はいつのまにか、三下小説家の想像力をはるかに飛び越えたところにまで到達していたりします。
 なんて言うことを最近つとに実感しております。ホラまあ、今どきはイット革命後のネット社会ですから。本当に思いも寄らぬところに自分の文章が届いていることを知って、身をすくめるような思いに駆られることもしばしばなのですが。


 そのことを改めて実感するようなことを、友人が教えてくれましたよ。
 産報出版のSANPO WEBに、拙著が紹介されておりました。
 一瞬サンスポ?産経?と混乱してしまったのですが、「産報出版社は、溶接に関するあらゆるメディアを展開する専門出版社です。」ということなのだそうで。……更に混乱してしまいました。スミマセン。
 率直に言って、チューバが真鍮であることぐらいしか溶接とのご縁がなさそうな拙作なのですが、その中のコラムのページでご紹介を賜ったようなのです。もちろんチューバの溶接にスポットを当てて書いているわけでは全然なく、とても丁寧な書評を書いてくださっています。なんかもう、本当に、嬉しかったですよ。ああいう内容の小説ですから、音楽畑、小説畑の方がご興味もって下さるのはよく分かるんですが、よもや溶接関係の方が読んでくださっていたとは。どうしても人間、専門や業務の範囲で本は読むかも知れませんが、それを踏み越えて本を読むというのは本当にある種の気力と時間がいると思うものですから。
 

 それに、どうもセガワはモノ作りですとか、専門職とか言ったモノに惹かれる傾向があります。溶接や工業というのはまるで門外漢なんですが、ついうっかりページのあっちこっちを覗き回ってしまいました。
 刊行物の月刊「溶接技術」とか「ビジュアル教材 JIS 溶接技術検定シリーズ」とか、たぶん中身はまるで理解できないんでしょうけど、なんだかすごくワクワクします。記事の「工場訪問ルポ」とか「溶接の歴史」とか、こっちは普通に面白いです。そっかあ、こういう技術が橋とか船とか自動車とか、場合によってはアクセサリーなんかを作ってるんだなあとしみじみ思いが至ってみたり。考えてみれば金属と金属とをくっつける技術ですから、その範囲はおそろしく広いのも当然ですね。いま視界に入る携帯電話もパソコンデスクも灰皿も、どっかしらに溶接が使われてるんじゃないでしょうか。
 こうやってみると、世の中って複雑で面白いもんだなと思いますね。自分とはまるで縁のなかった技術なんですけど、そこには数千年に渡る歴史と技術が蓄積されてるわけですから。こうしているうちにも日本のどこかで、溶接技術検定を目指すべくトレーニングしている職人さんがいるのかも知れませんし。多少モノを知っている気になっていても、それはやはり夜郎自大としか言いようがなくて、どのジャンルも相応に深く広い世界を持っているようです。


 というわけで、とても嬉しいご紹介でした。ありがとうございました。
 あ、ちなみにご紹介下さったコラム「秋葉原日記」、なんか異常に話のネタが広いんですよ。本のことを書いたり鉄道のことを書いたり仏像のことを書いたり合鴨のことを書いたり、守備範囲が広くてクラクラ来ます。面白いです。
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ヤンヤンヤヤー 八木山のー
ベニーランドででっかい夢が
はずーむよー はねーるよー こーろがーるーよー







 小説の取材をかねて、八木山ベニーランドに行ってまいりました。
 仙台にある遊園地であります。おそらく仙台を中心とする東北人には(このたいそう素敵なCMソングの影響もあって)絶大な知名度を誇りつつも、他地域の人々の知名度はかなり低いものと思われるところです。
 まあこういう遊園地って全国各地にあるんでしょうが。岩山パークランドとか姫路手柄山遊園地とか。
 とはいえ最近こういう遊園地はいろいろとご苦労なさっているようで、浦安の例のアソコの一人勝ちなどともよく言われているようです。 じっさい案内してくれた仙台の友人も、「ベニーランドって仙台人自身がかなり微妙なところって思ってるからー」と少々不安になるようなことを口にします。実はセガワ自身は浦安の例のアソコを除けば遊園地の訪問はほとんど四半世紀ぶりと言ってよく、すっかり記憶のかなたになっていた昭和の時代のことを思い出しつつの訪問でした。
 不運にも当日は雨交じりの空模様で、これはかなり空いているかもねえなどと予想してはいたのですが。



 …………予想的中であります。
 ものすごい空きッぷり。
 なんだか気の毒になるぐらいにお客さんが入っておらず、ほとんど貸し切り状態でした。あの遊園地特有のバカハッピーでアッパーな雰囲気のまるで伝わってこない状況に、少々気圧されます。ウワァ楽しいねーキャッキャウフフといったようなセリフが出て来ようもありません。
 ど、どうしようかなあと戸惑いつつ、とりあえずあんまり怖くなさそうなジェットコースターに行ってみます。コースターは三つあるのですが、二つはなんか非人道的なひねりだの回転だのが加わっているので即座に却下です。絶叫系マシンは大の苦手なので。
 少々聞こえてくるギシギシ音に必要以上のスリルを感じつつ、四半世紀ぶりのコースター体験です。


「んのおおおおおおおおおおおお」
「ふぎゃあああああああああああ」


 我々の他に二人、合計四人の乗客が絶叫しました。速度的には大したことがないはずなのに、凄い重力を感じます。ちょっと中休みがあって、また加速。
 あ、あれ?これ、なんかすごく楽しいぞ?
 ついでにバイキングのアレ、なんて言うかあのでっかい船がぶんぶん振れるやつにも乗ってみます。


「ふおおおおおおおおおおぉ」
「ひゃああああああああああ」


 またしても絶叫でした。セオリー通りいちばんはじっこに乗ったので、実に効果的に垂直落下が楽しめます。いや間違いない、これ、面白いですわ。


 時間の都合もあって三つ四つしか遊具は楽しめなかったのですが、どれもすごく面白いんですよ。率直に言ってなにか目新しいマシンがあるわけでもないんです、だけど、コースターは面白いしバイキングはおっかないし観覧車はやけに眺めがいい。四半世紀ぶりの経験とは言え、遊園地って面白いんだなあと今さらのように認識しました。
 なんか、こういうシンプルな楽しみかたって久しくしていなかったなあとつくづく思い知らされもしました。


 マー別に浦安の例のアソコをくさすつもりはないんですが、それにしても、猫も杓子も浦安の以下略に詣でなくてもいいんじゃないかなと改めて思いました。休日に家族なり彼氏彼女なり友人なりと連れだって、地元の遊園地に行って、こういうシンプルで基本的で率直な楽しみを味わうのって、あんがい幸福の基本形なんじゃないかと少々大それたことまで感じましたね。
 浦安の以下略は、遊園地の体験としては少々特殊なものだと思うんですよ。遠路はるばる出かけていって、さんざん行列に並んだりパレードに手を振ったりすることまで含めて、一種の一大イベントと考えた方がいい。旅行に近いですかね、ここまで来ると。それはもちろん悪くないんですが、気軽な楽しみとしては少々大きすぎる。
 それに、あれは大人は楽しめるだろうけれど、子供、特に学校上がる前ぐらいまでのお子さまにとってはどこまで率直に楽しめるものなのか、ちょっと考え込むことはあります。あんがい、日曜日に地元の遊園地に行ってゴーカートなりコースターなりに乗って、帰りにちょっとファミレスでメシでも食って帰る方が、楽しみの総量としては大きいかも知れない。なんつっても日常の延長ですから。毎度毎度高級寿司店に行く必要はまるでなくて、回転寿司だって大いに楽しめるのと同じことです。ツナロールとかシーフードマヨネーズとかおいしいじゃないですか。あれはあれで。
 突き詰めて言えば、日常のちょっと延長した先をどれぐらい楽しめるかということが各人の幸福感にかかっているのではないのかな、と、またも大それたことを考えてみたりもします。ささやかな発見と、それから面白がりかたの発見みたいなものが、こういう楽しみの上では重要なんじゃないかと思います。このことは以前、似たようなことをこことかここのエントリーでも書いたんで長々とは繰り返しませんけど、つまらなさを嘆く前に、やることはまだまだたくさんあるようです。


 まあそんなわけで、ベニーランド、たいそう楽しゅうございました。
 またぜひ再訪するつもりです。その折りにはションベン漏らす覚悟で、非人道的なコースターにもチャレンジしてみる所存です。






 付記。そんなわけで非常に日の悪い訪問とはなりましたが、ベニーランドの園内の手入れが行き届いていることには本当に感服しました。少々古びているものの園内はとてもきれいですし、芝生や植木にもきちんと手が入っています。こういうところに、スタッフの方々の心遣いを垣間見たように思います。
 一昨日、今年の太宰治賞の授賞式に出席してきました。
 とはいえ、去年はなんというかマー俎の上の鯉状態でイロイロ大変だったのですが、今年は単にゴハン食べたりお酒飲んだりする係だったので気楽でしたよ。会場はフレンチの旨さに定評がある東京會舘なので、ちょっとウキウキだったり。
 ちなみに絶品なのはオムレツとカレーです。なんでそんなファミレスライクなメニューを、とお思いかも知れませんが、名人が作ると、これがまあ、なんというか本当に、信じられないぐらい旨いのです。
 とはいえ文芸関係の方々がごっそりいらっしゃる場ではあるので、名刺を用意しつつご挨拶などもして参りました。普段名刺を使う習慣がないので、こういうときは多少緊張します。
 昨年さんざんお世話になった方々にお礼を言ってきたり。今年限りで高井有一先生、柴田翔先生が審査委員を勇退なさるのはとても残念でした。セガワの背中を押してくださった、大恩ある先生方ですから。


 それにしても、 もう一年経ったのかあ……、と思うと感慨深いです。はやいもんだ。どんだけ書いてきたかなあ、と思うとおそろしく不安になってしまうのですが。スタートラインに立つ資格を頂いただけのことで、紡ぐことや織ることや断つことや縫いあげることを怠っていては、あっというまになにごとかが錆び付いてしまいそうな気分になります。
 がんばらねばなあ、としみじみ思いました。以前の受賞者の方と話したことですが、今後少しでもマシなモノを書いていくことが、なによりこの賞に対する恩返しになるでしょうから。


 なお、今年の受賞作+候補作が収録された「太宰治賞2008」は21日に発売になるそうです。セガワは会場でフラゲしてきましたが。
 受賞者の永瀬直矢さん、本当におめでとうございます。
 「チューバはうたう-mit Tuba」の増刷が決まりました。
 こないだから筑摩書房のサイトやamazonで在庫切れになっててどうなることやらと思っていたのですが、これでまたネットでも買えるんじゃないかなと思います。
 まあ他のオンライン書店や店頭にはまだ在庫があるみたいなんですが……。
 なんか型どおりの言葉で恐縮なんですが、買ってくださったみなさま、読んでくださったみなさま、本当にありがとうございました。身内や親戚、知人友人あたりはまあともかく、チューバの話ということもあってか妙なところに話題が届いているようで、本当にありがとうございます。
 それからはうはうとかチュパカブラとか言いつつも買ってくださった人々にも感謝しています、というかマジで恐縮してしまいます。なんか大量にまとめ買いしてくださった人もいるみたいなので……。もうサインぐらいならいつでもお引き受けしますよ。


 あんまり作者が口を出すことではないのでしょうが、ちょっとだけ本書についてフォローを。
 「チューバはうたう」作中、チューバで「屋根の上の牛」を吹くシーンがありますが、これはもちろんフェイクです。いろんな楽器向けにアレンジされている曲ですが、確かオリジナルの編成にチューバは入っていなかったはずですので。あのやけに軽やかで楽しげなフレーズをチューバで吹いたら面白いだろうな、ということでこっそり混ぜてみました。
 もう一つ、アンデパンダンというのはフランス語で「自立」を意味する言葉で、英語のインディペンデントに対応する言葉です。赤瀬川源平さんたちのご活躍で定着した言葉になったかな、と思っていたのですが、訊ねられたことがありましたのでここで書いておきます。
 他に曲名や人名については読者のかたからご指摘を受けた部分もあり、ちょっと修正する予定です。ありがとうございました。


 ついでながら、一つだけクイズを。 
 収録されている「飛天の瞳」の文体には二つほど特徴があるのですが、お気づきの方はいらっしゃったでしょうか?改行がないという点以外に、もう一つ。お分かりの方、メールを下さればお答えいたしますよ。


 近況ですが、とりあえずモリモリ小説を書いてます。長いのと短いの。近いうちにお目にかけられるかと思います。
昨日の毎日新聞に「チューバはうたう」の書評が掲載されました。
残念ながらwebでは読めないようですが、本当ですよ。
↓一応こんなものがあったので貼っておきます。
http://www.honya-town.co.jp/hst/HTNewspaperReview?isin=3&hiduke_rink=20080601

Webに掲載されておりました。こちらです。(2008.7.9.追記)




評者は作家の池澤夏樹さんです。
これは、本当に嬉しかったです。
大学のころに「スティル・ライフ」を読んで以来、大好きな作家さんですので。
特に好きなのは「真昼のプリニウス」という長編で、
小説から「単にストーリーを説明するだけではないなにものか」を感じ取ったのは
この作品が初めてだったかも知れません。
「南鳥島特別航路」等のエッセイもすばらしく面白いとか、
「南の島のティオ」という素敵な児童文学があるとか、
個人的な思い入れを書き始めるときりがないのですが、一つだけ。
拙作「チューバはうたう mit Tuba」の中にこういう下りがあります。


 これははっきり言おう、音楽をやっている人間たちの大半、おそらくは九十九パーセントかそれ以上は、実のところ、本当の意味で音楽をやっているわけではないのだ。自分たちのやっていると信じる音楽を包括してくれるジャンルの中に居場所を求め、そのジャンル全体の認知を裏切らないことを最上の価値とするのだ。そこには様式美はあるが、面白味はない。すでに築かれた塔に上って風景を楽しむことはできるが、その塔に新たな階層を付け加える勇気はない。要するに、皆、いくつもの小島の周りを泳いで珊瑚礁の海を楽しんではいるのだ。しかし、どんな波がくるかわからない外海へと向けて泳ぐ意志と力はない。
(筑摩書房『チューバはうたう mit Tuba』 55ページ)


この最後の部分は、池澤さんのインタビュー「沖に向かって泳ぐ」からお借りした表現です。
元々はウィリアム・フォークナーがアーネスト・ヘミングウェイを評して
「沖に向かって泳ぐ勇気」という表現をしたと、この本から教えられました。


それからもう一つ、池澤さんはテオ・アンゲロプロス監督の映画の字幕を付けるという
特筆すべき仕事をなさっています。
「ユリシーズの瞳」は、今なお自分の中で三指に入る映画かも知れません。
日本公開当時は二十歳ちょい過ぎの若造に過ぎませんでしたが、
それでもこれは、キャラクターを動かしストーリーを語る、だけではない、なにごとかを感じ取った
初めての映画だったように思います。
そうとなれば「旅芸人の記録」を観ないわけにはゆかないのですが、
……4時間か………………。
むぅ。


↓せっかくですので二冊ほどお勧めを。後者は京都大学での文学の講義です。面白いですよ。

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Author:segawashin
2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
ホームページはこちら。
www.segawashin.com
ツイッターはこちら。
http://twitter.com/#!/segawashin

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