拙著「チューバはうたう」の表紙を描いてくださった衿沢世衣子さんの新刊が出ましたよ!
……といってももう先月のことなのですが。タイミングのずれたご紹介になってしまってすみませんです。
「シンプル ノット ローファー」。素敵なタイトルです。とはいえ自分のような野暮天は、ローファーってなんだっけ……あの女子高生とかがはいてる革の平靴ねアーウンウン、と慌てて調べてしまうのですが。
そしてタイトル通り、これはとある女子高を舞台にして、女の子たちの生活を描いた漫画です。これと言った事件が起こるわけでもない、緩やかな日常。しかしこれが、面白いんですよ。
こう書くと、なにか今様の「萌え」「まったり」「癒し系」みたいなキーワードで語られそうになるのですが、あまりそういう印象は受けないんですよね。確かに描かれているのは、女子高のなんてことはない緩やかな生活なんですが。
ここに描かれているのは、なにか余計なことばっかりしている女の子の姿です。べつだん悪いことではなく、取り立てて奇抜なことというわけでもなく、しかし、決して生活の要になりそうにないささやかな事柄。例えば、電気工作とか、コーヒーとか、映画とか、ダンスとか。なのに彼女たちは、やけに真剣に、おのれの信じる何ごとかに組み付いてゆくんですよ。取り立てて悲壮感を漂わせるでもなく、軽やかに、しかし熱心に。そして、これはまさしく筆者の力量だと思うのですが、彼女たちはモノローグの形で自分の心情を吐露しません。すべては現れ出る行動から推し量るよりなく、その行動には嘘が混じらず、感じ取れるものは「軽やかながむしゃらさ」とでも言うべき彼女たちの情熱です。そっと敬意を表したくなります。
それは読み手たる筆者ばかりではないようで、彼女たちどうしもまた、絶妙な距離をとりつつ、わざとらしい共感を示すでもなく、無理解をあげつらうでもなく、しかし確かにお互いを認め合っているようです。いいなあ、こういう人間同士のつきあい。それは本当に難しいことなのだ、とは、もうそこそこ年を食ってしまった筆者の嘆きではあるのですが。
なんだか堅苦しい話になってしまいましたが、実際のところ、それぞれの話は本当に楽しげな物語です。だいたいにして打ち込んでいるのは「余計なこと」なので、その一種の無鉄砲には少なからず微苦笑を誘われます。
筆者個人の好みでは、なぜか電気工事に打ち込み始めたりょうちゃん(とその友人のふくれっ面が可愛いナロメ)、やけにテンション高くリヤカーで爆走するナカジ、片時も手放さない携帯からふと顔を上げたエマちゃん、孤独を愛したいらしいコーヒー好きのくぐみちゃん、茶道の素晴らしさに開眼した(と信じているらしい)なっちゃん、あたりでしょうか。
いいなあ、こういう高校生活。本書を読んでいて、なぜかしきりに思い出されてならなかったのは、ほとんど歴史のかなたに行ってしまった自分自身の高校生活でした。あなた都会の真ん中の女子高、こなた片田舎の小汚い男子校、ほとんど天地ほどの差があるにも関わらず。接点などありようもない二つの世界ですが、一つだけ拾い上げるならば、やはり余計なことばっかりしていたかつての自分の高校生活で、あの膨大な無駄で満たされていた三年間は、かけがえのないものだったのだと今になってみれば思います。
すべての物語の最後、ざわめきが静まった後の数ページの素晴らしさは無類のものです。これは、是非、お読みになって下さればと思います。
筆者は確かにここに、なにか音楽が流れていると感じました。旋律もリズムも、響きすらもない、そういう音楽です。夏空にそのまま連なってゆく音楽です。
今の季節にうってつけの一冊です。
畳の上に寝っ転がりながら、サイダーとかラムネをすすりながら、お気に入りの音楽をかけながら、是非どうぞ。
……といってももう先月のことなのですが。タイミングのずれたご紹介になってしまってすみませんです。
「シンプル ノット ローファー」。素敵なタイトルです。とはいえ自分のような野暮天は、ローファーってなんだっけ……あの女子高生とかがはいてる革の平靴ねアーウンウン、と慌てて調べてしまうのですが。
そしてタイトル通り、これはとある女子高を舞台にして、女の子たちの生活を描いた漫画です。これと言った事件が起こるわけでもない、緩やかな日常。しかしこれが、面白いんですよ。
こう書くと、なにか今様の「萌え」「まったり」「癒し系」みたいなキーワードで語られそうになるのですが、あまりそういう印象は受けないんですよね。確かに描かれているのは、女子高のなんてことはない緩やかな生活なんですが。
ここに描かれているのは、なにか余計なことばっかりしている女の子の姿です。べつだん悪いことではなく、取り立てて奇抜なことというわけでもなく、しかし、決して生活の要になりそうにないささやかな事柄。例えば、電気工作とか、コーヒーとか、映画とか、ダンスとか。なのに彼女たちは、やけに真剣に、おのれの信じる何ごとかに組み付いてゆくんですよ。取り立てて悲壮感を漂わせるでもなく、軽やかに、しかし熱心に。そして、これはまさしく筆者の力量だと思うのですが、彼女たちはモノローグの形で自分の心情を吐露しません。すべては現れ出る行動から推し量るよりなく、その行動には嘘が混じらず、感じ取れるものは「軽やかながむしゃらさ」とでも言うべき彼女たちの情熱です。そっと敬意を表したくなります。
それは読み手たる筆者ばかりではないようで、彼女たちどうしもまた、絶妙な距離をとりつつ、わざとらしい共感を示すでもなく、無理解をあげつらうでもなく、しかし確かにお互いを認め合っているようです。いいなあ、こういう人間同士のつきあい。それは本当に難しいことなのだ、とは、もうそこそこ年を食ってしまった筆者の嘆きではあるのですが。
なんだか堅苦しい話になってしまいましたが、実際のところ、それぞれの話は本当に楽しげな物語です。だいたいにして打ち込んでいるのは「余計なこと」なので、その一種の無鉄砲には少なからず微苦笑を誘われます。
筆者個人の好みでは、なぜか電気工事に打ち込み始めたりょうちゃん(とその友人のふくれっ面が可愛いナロメ)、やけにテンション高くリヤカーで爆走するナカジ、片時も手放さない携帯からふと顔を上げたエマちゃん、孤独を愛したいらしいコーヒー好きのくぐみちゃん、茶道の素晴らしさに開眼した(と信じているらしい)なっちゃん、あたりでしょうか。
いいなあ、こういう高校生活。本書を読んでいて、なぜかしきりに思い出されてならなかったのは、ほとんど歴史のかなたに行ってしまった自分自身の高校生活でした。あなた都会の真ん中の女子高、こなた片田舎の小汚い男子校、ほとんど天地ほどの差があるにも関わらず。接点などありようもない二つの世界ですが、一つだけ拾い上げるならば、やはり余計なことばっかりしていたかつての自分の高校生活で、あの膨大な無駄で満たされていた三年間は、かけがえのないものだったのだと今になってみれば思います。
すべての物語の最後、ざわめきが静まった後の数ページの素晴らしさは無類のものです。これは、是非、お読みになって下さればと思います。
筆者は確かにここに、なにか音楽が流れていると感じました。旋律もリズムも、響きすらもない、そういう音楽です。夏空にそのまま連なってゆく音楽です。
今の季節にうってつけの一冊です。
畳の上に寝っ転がりながら、サイダーとかラムネをすすりながら、お気に入りの音楽をかけながら、是非どうぞ。
![]() | シンプルノットローファー (2009/05/20) 衿沢 世衣子 商品詳細を見る |