セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

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 気が付いてみれば今年も残すところあと四日、すっかり年の瀬となってしまいました。この、クリスマスが終わってから大晦日までの一週間って好きなんですよね、師走の多忙もいいかげん頂点を過ぎた感じで(まァ業種によってはそんな眠たいことも言っていられないんでしょうが)。
 冬の極の静かさと言いますか、一年の尽きる最後の瞬間といいますか、いずれどことなく静かで内省的な気分になることの多い一週間です。


 振り返ってみれば、たいそう忙しい一年でした。個人的にもイベントがてんこ盛りな一年だったんですが、社会に目を向ければ、九月の政権交代がいちばんのニュースだったんじゃないかなと思います。これは以前、選挙の直前にも書いたことではあるんですが、半世紀に渡って事実上一つの党が政権を担ってきて、それが交代したらいったいどういうことが起こるのか、そのことを目の当たりにした今年の後半でありました。
 多少の不謹慎を承知で言えば、面白くて仕方がなかったです。良いことにせよ悪いことにせよ、これまでの自民党政権ならば絶対に問題視されることがなかった、明るみに出ることするらなかったなかったであろういくつもの問題が引っぱり出され、衆目の下にさらされ、喧々囂々の議論が巻き起こり。セガワはわりと律儀に新聞を読む方なんですが、それにしてもこの四ヶ月は、本当に新聞を読むのが楽しくて仕方なかった。個々の出来事について是非を云々するつもりはないんですが、端的に言えば我らの暮らすこの社会にあまたのいびつさが潜んでいることに幾度も気付かされたわけで、これは、なかなか得難い経験だったと思います。


 たとえば、八ツ場ダムのこと。これなど、政治的なグロテスクの典型でしょうね。
 半世紀以上前に計画され、しかもその計画は当初からあちこちに問題があって、そもそも酸性が強すぎて飲用にも工業用にも適さない水系であるところを強引に中和用のダムを造り、そうこうする半世紀のうちにとっくに水需要は変化してしまい、幾度も襲う台風をやり過ごしてきた点では防災という用途も説得力を失い、それでいて政治家肝いりの天下り団体が三十以上もこのダムにひしめき、当初の予算の七割を消費して未だにダム本体は着工されず……。最後に絞り出した小理屈が、「ここまで来たら中止するよりも完成させた方が安い」というもの。もうこれは、カフカがかすんで見える不条理だと思いましたね。
 いや、もう、すごいです。「城」「万里の長城」を書いたカフカがこれを知ったら、どんな感想を漏らしたことか。どんな不条理小説よりも不条理な現実が半世紀近くも山間の村々をかき回してきた点、深い内省に誘われますね。これが要するに、戦後というものの一つの現実だったわけです。新聞に報じられていた、「シベリアに出兵して抑留された。帰国を果たして故郷に戻ってきたら、ダムの問題が始まった」という古老の証言、この言葉の含む半世紀の遠大に、しばし言葉を失いました。
 そして、物書きとしては少々の焦燥に駆られたことも白状しておかなければいけないでしょう。これに勝る理不尽、これに勝る悲喜劇、はたして自分の脳から絞り出すことができるかどうか。


 またたとえば、事業仕分けのこと。セガワの率直な感想は、「ああどんなジャンルにも利権って存在してたんだなあ」という点に尽きます。そして、そこにいざ踏み込んでこられた時には、どのジャンルの方々も牙を剥きうなり声を上げた点、まことによく似ておりました。音楽家にせよ、科学者にせよ、スポーツ選手にせよ。そして、どの方々も、使ってきた金額に比した成果ではなく、その金が割り振られるべき「理念」みたいなものを言い立てたあたりもまた、実によく似ていました。
 事業仕訳の個々の内容について感想を言うことは控えますけれど、「カネの使われかた」が白日の下にさらされた点については率直に評価をしたいです。どんな風に理屈を付けようと、この国の歳入が減っていることは間違いのないところですし、されば、ない袖をどんな風に振るかはいちど入念に検討される必要があるのでしょう。これまで「×××の振興」という名目さえあれば大らかに金が下りてきたところが、もはやそういうことは簡単にできなくなってきた、我らの生きる社会はそのように変質しつつあるようです。端的に言えばこの事業仕訳は、「それは本当に『日本の社会にとって』必要なことなのだろうか?」ということに考えを向けるよすがになったんじゃないかと思います。


 また、普天間基地の移転問題も、たいそう興味深いものでした。
 日米友好の半世紀を少なくとも日本は築いてきたものと思っておりましたが、よもや、米軍基地の移転先を保留しただけでこれほどの強い反応が引き起こされるとは思わなかった。ひょっとすると日本とアメリカはそんなに仲良くないのではないだろうか?といぶかしんでしまうほどでした。ことによるとアメリカは、政権交代によってこの問題にどのような影響が及ぶのか想定していなかったのではないか、そんな疑いさえ抱いてしまいます。日本に政変が起こることは、少なくとも小泉政権以後には予想の範囲に入れておくべき選択肢だったと思うんですが。これもまた、一つの党が長く政権にいすぎたことのツケなんでしょうかね。
 もちろん、卑近な人間関係を国家間の友好関係に模して考えるのはなんの意味もないことですし(そもそも国家間の『友好』という概念はかなり疑わしいと思います)、結局のところお互いに損のない範囲で関係を取り結んでゆくことが国際協調なのだとセガワは考えているのですが、そうしたときに普天間に固執するアメリカの真意が今一つセガワにはまだよく分かりません。「普天間はどの程度アメリカにとってお得なのか?」ということがよく分からないのです。
 そしてまたこの一件、「米軍の駐留が日本にとってどの程度お得なのか?」という問題を突きつけたようにも感じました。そのお得さの度合いによって、日本が譲歩する幅も決まってくるように思います。「日米同盟堅持だから普天間でイイヨネ」といった短絡からいったん引き離された点だけをとっても、この件はとても意義深いですよ。以前、池澤夏樹さんが「具体的な移転先を考えてみる」といった趣旨の文章を書いておられ、大変興味深く読んだことを記憶しているのですが(*)、このような「現実的な」解決策の一つも政治の場からは出てこなかったのがこれまでの日米関係だったのですから。


 さて、そうとなると首相その他の献金問題があぶり出されてきたことにも言及すべきなのでしょうが、正直なところ、これはあんまり面白味をそそられないんですよ。というのも、セガワが覚えているいちばん古い政治がらみのニュースの一つが、田中角栄のロッキード事件裁判なんです。その後もリクルートに佐川に鹿島にと、政治とカネを巡るニュースが途切れなかっただけに、政治家に金銭的な潔癖があろうはずもないと一種の諦めを感じているからなのかもしれません。ま、要するに、またかぁ、と。
 もちろんこれが日本だけの病理だと言うつもりは毛頭なく、なにかと日本人が民主主義の範を仰ぎたがるイギリスにしたってついこのあいだ議員手当の問題が明るみに出ていたようですし、一方でアメリカみたいに極端なロビー活動がはびこってそれを合法としてしまうのも、なんだかあんまり健康ではないように感じます。さりとて共産党が主張するごとく、いっさいの企業献金を廃止せよと迫るのも、社会の役割を担うべき企業の手を縛るようなもので、これもどうだかなあ、と。
 突き詰めてみれば、金を集めて割り振るのが政治の重大な役割である以上、そこにグレーゾーンがたっぷり含まれることは不可避のことなのではないかと思います。それよりも、誘導される利権の方に目を光らせるほうがはるかに労が少ないのではないかな、と思わないでもないんですが、これも絵に描いた餅なんでしょうか。


 ともあれ、九月以降の政治を眺めるに、セガワには驚き飽きることのない四ヶ月でした。あまり時事問題には言及しないように努めてきたのですが、これほどのてんやわんやになにか一つ感想を残しておかないのは勿体ないことだと思いましたよ。
 それにしても、繰り返しになるのですが、これほど面白い現実に拮抗するフィクションを考えるとなると空恐ろしいというのが正直なところです。国盗り合戦やサクセスストーリーにとどまらない(つまりは政治家小説ではない)、政治そのものを扱った政治小説が日本には少々少ないのではないかなとセガワは感じていましたが、「イワン・デニーソヴィッチ」も「族長の秋」も「外套」も「怒りの葡萄」も、よもや我が身辺にあったとは。
 もちろんこれまでのセガワの目がのどかすぎたのだというお叱りは承知の上で、およそ小説を書く人間の心胆寒からしめるに足るバーレスクに満ちた四ヶ月だった、と、セガワは感じておりますが、さて諸先輩方ならびご同輩は如何に。


(*) 手元に資料がないので記憶を頼りに書きますが、おそらく10年以上前の文章で、具体的な地名(ここでは書きませんが鹿児島県内の某島です)を挙げ、米軍の移転先として適切ではないかと論じたエッセイでした。単純に米軍に退去を迫るでもなく、沖縄に我慢を強いるでもなく、非常に現実的な内容ではないかなと感じた記憶があります。



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2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
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