セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

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 世田谷美術館で、川上澄生展を見てきました。
 実はこの川上澄生という版画家、セガワの母校である宇都宮高校の講師をしていたというささやかなご縁があります。あんまり在学中はリスペクトされていた記憶がないのですが、確かに校門のかたわらに記念碑がありました。なんとも不思議な作風に心惹かれて、高校の美術の時間にまねをして詩文入りの版画を作ったことを覚えています。川上澄生の実作には栃木県鹿沼市の川上澄生美術館でふれたこともあるのですが、今回の世田谷美術館の展覧会もずいぶん大規模なものでした。
 しかし、あらためて見てみると、なんとまあ不思議な作風の人ですね。昔の人のふるまいというのを現代の視点から理解するのは多少の難しさを伴うものだと思いますが、それにしても、川上澄生の懐古趣味というのは一種独特のものだったのではないかと思います。明治中期に生まれ、昭和初期から中葉までを主な活動の時期としていた川上にとって、明治初期の異国情緒というのはすでに過去の、生前のものだったでしょう。簡素な年譜だと騙されそうになるのですが、横浜で生まれたにせよ三歳のときには東京に転居しているということですから、しばしばモチーフにしていた横浜の異人街からして後付の経験なわけです。南蛮船来航のモチーフなどは、言わずもがなですね。今回の展覧会に出ていた作品の中に栃木県姿川村の子供たちが相撲を取っているという作品があって、へえ、珍しいなあと思ってしまったぐらいですから、いかに川上にとって「今ここにあるもの」が興味の対象から外れていたか分かると思います。これはもちろん、いい悪いの問題ではありません。川上自身もそのことには自覚的であったようで、虚構の風景や玩物に心惹かれる心情を率直に吐露しています。そのことを述べた文章も展覧会のあちこちに記してあって、これは貴重な収穫でした。
 こういう奇妙な、懐古趣味と言うにしたっていささか極端な川上の作品をたっぷり眺めていて、ふと連想したのは、俳人の西東三鬼です。片や木版画、片や俳句と表現の手段は違いますが、その性情には似通った物があるのではないかと思いました。年齢も五歳の違いですから、同時代を生きた二人だと言っていいでしょう。いささか我田引水に比較してみれば、生家が裕福であり恵まれた少年時代を過ごした点(偶然ですが母校は二人とも青山学院です)、青年期にさしかかったあたりで実母を亡くしている点、若いうちに外国生活を経験している点、そしてそれが必ずしも内発的な動機ではなかったらしい点、創作以外の生業を持っていて晩年まで二足の草鞋をはいていた点、そして、創作に取り組みはじめたのは若さも過ぎ去りつつある三十代に入ってからのことだったという点、いずれもよく似ています。
 ただ、そういった年譜上の符合という点に増して似ていると感じるのは、「いまここにあるもの」からの奇妙な距離感です。おそらくは昭和初期、今よりも濃厚に社会に存在していたであろう日本的な風物から、二人の創作物はとても遠いところにあるとセガワは思います。西東三鬼の俳句は花鳥風月とは無縁でしたし、川上澄生は徹底して同時代を描かなかった。

  水枕ガバリと深い海がある
  寒夜明け赤い造花がまたもある
  おそるべき君等の乳房夏来る

 西東三鬼の俳句は不思議です。日本語を扱っているのに、なんとも日本語の正則(そんなものがあるのならば、ですが)を逆なでするかのような言葉を選び、ごつごつした質感のままに継ぎ合わせて峻烈な風景を描く。そして、自己愛的な心情を吐露することがない。これは、例えば種田山頭火の俳句が、俳句の定型から逸脱しようとしながらも結局のところ湿っぽい日本的情緒を漂わせる点と好対照なのではないかと思います(この点、山頭火が今なお愛されている理由でしょうね。それに、日本人は自分に関わらない範囲での生活破綻者には比較的愛情が深いようです)。
 川上澄生と西東三鬼、この二人は、片や高校教師、片や歯科医師という実直な生活者の道を選びながら、その作り出す風景は日常から遠く離れていました。これはもちろん二人の資質によるのだろうなとセガワは考えますが、日常の中に鈍磨しそうになる爪を文章に突き立てなければならない身の上で、このような先人の姿は大いに励まされるところです。


 なお、この世田谷美術館、砧公園の一隅に建てられていて、この季節に訪れるにはなんとも気分のいい場所であります。ことに、かたわらにすっくと屹立しているケヤキがなんとも見事ですよ。


 西東三鬼についてはこの本がお薦めです。特に「神戸」「続神戸」というエッセイの奇天烈ぶりは抜群で、大戦末期に外国人だらけの神戸のアパートに住んでいた折りの見聞を綴ったもの。こういう日本人も居るんだ、という奇妙な感慨に耽ることができますよ。

神戸・続神戸・俳愚伝 (講談社文芸文庫)神戸・続神戸・俳愚伝 (講談社文芸文庫)
(2000/05/10)
西東 三鬼

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コメント

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>F.H様
コメントありがとうございます!
メールをお送り致しましたが、届いていないようでしたらお手数ですが
またこちらに書きこんでくださいませ。

お久です

 どうもご無沙汰です。なんか更新、止まってるみたいな・・・。「元気ですか~!」 
 そろそろお会いして、お話でもしたいなあ、なんて思いますね。最近の先生の思想とか聞いてみたいです。 

>がちょ
ご無沙汰ですー。ブログ自体最近放置してましてすんません。
確かに久々にお会いしたいですね、
東京来ることあったら声かけてくださいよ。

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2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
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