セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
連休中のことを書こうかと思ったけど長くなりそうなので、本日買った漫画のことを先に。
(本項は敬称略です、失礼)


-------- ☆ --------


 島本和彦「アオイホノオ」が素晴らしく良かった。
 漫画家の書いた漫画モノにハズレはずれなしという言い方があるみたいだけど、身近な題材であることもさることながら、漫画という実はおそろしく手間のかかる表現技法に没入した記憶を誰しも持つからなんだろうなと思う。基本的に個人作業である表現手段の中でも、漫画の孤独さと手間のかかり方というのは群を抜いているんじゃないだろうか。
 確かに藤子不二雄Aの「漫画道」も、吉田忠「ハムサラダくん」も、山本おさむ「ペンだこパラダイス」もみんな素晴らしかった。タイトルが思い出せないけどさいとうたかをの少年期を書いた話とか、comic新現実に載ってた吾妻ひでおの漫画もすごく良かった。(でもなぜか永島慎二のだけは微妙に苦手だ)
 で、「アオイホノオ」、80年代初頭という日本の漫画の転換期を舞台に島本和彦の青春時代が書かれているわけだが、例によっての「熱い」画面が、なぜか異常に切なく伝わってくる。もともと作者はギャグの一環として少々意図的にあの「熱い」描法を取っている節があるようなんだけど、ここではその「熱さ」が実に見事に空回りしている。もちろん悪い意味ではなくて、それは主人公焔燃(ホノオ・モユル)の立場がどうやったって空回りせざるを得ないところにいるからなんだと思う。
 完成させた漫画は一本もなく、金も地位も彼女もないけれど、漫画やアニメへの情熱は人一倍強い。周囲に群れをなして集まる異才秀才天才たちに圧倒されつつも、どこか焔は無闇な自己肯定にあふれ、1本の映画をオールナイトで4回も鑑賞し、インチキくさい筋力トレーニングマシンを通販で購入して筋トレにいそしむ。


 なんか、もう、読んでいて嬉しくてたまらなかった。
 焔燃はやたらに悩み、逡巡するものの、つまらない自己否定や自己憐憫には陥らない。他者の才能を認め、驚き、恐れるが、嫉妬はしない。「俺ならこうしてみせる」という根拠があるんだかないんだか分からないモチベーションに転化される(一本も作品を完成していないにもかかわらず!)。
 この無闇な情熱が、無性に心地よかった。漫画ゆえの誇張を大いに含むと承知しつつも、嬉しくて仕方なかった。こういう闇雲さが許されるところに、まだ、焔燃は居るからなのだろう。
(批判を承知で書くけれど、対置して思い出されるのがちょっと前にヤンマガでやっていた『G戦場ヘブンズドア』という作品。これが自分はどうも苦手だったのだが、それは漫画を書くという行為に才能や確執という要素をふんだんに盛り込んでいたからなのだと思う。もちろん才能は必要なものだしそれを否定はしないが、高校生前後の人間たちがそんなことにこだわっていてどうなるものかというのが自分の意見。誰もがおしなべて出来ることを当たり前のように出来るようになってから、改めて度考え直したってまるで遅くはないことなのだから。この作品の意図を否定する意見ではないけれど、残念ながら自分にはどうしてもなじめない内容の作品ではあった。)
 ちなみにこれは単行本の1巻だが、明らかにインチキな筋トレマシーンを繰り返した結果、焔燃にうっすらと腹筋がつき始めたところでこの巻は終わる。鈍重で執念深い鍛錬が、かすかに結実したことを示唆するラストだと思う。
 いい漫画を読んだ。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://segawashin.blog20.fc2.com/tb.php/43-ea356450

segawashin

Author:segawashin
2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
ホームページはこちら。
www.segawashin.com
ツイッターはこちら。
http://twitter.com/#!/segawashin

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。