セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

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 ものすごく面白い本が発売になりました。


速水螺旋人の馬車馬大作戦速水螺旋人の馬車馬大作戦
(2008/05/12)
速水螺旋人

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 漫画家・イラストレーターの速水螺旋人さんの作品集です。以前から大好きな作家さんだったのですが、最近チューバのアレとかをご縁にお知り合いになりまして(ちょっと自慢)。キャリアの長さを考えるにちょっと意外なのですが、これが記念すべき初単行本だそうです。
 軍事ものの漫画を中心にファンタジーものやロシアネタ、イラスト、フリートークと三百ページに及ぶ堂々たるテンコ盛りな内容なのですが、なんといってもタイトルの元ネタ「馬車馬戦記」がめっぽう面白いですよ。要するに架空戦記と言ってしまえば話が早いのですが、驚くべきはそのホラの完成度にあります。おそろしく凝ったディティールにあちこちに挿入される遊び心、そしてそれらを丸ごとえいやあと納得させてしまう絵の力。これらを存分に駆使して、いくつもの歴史の物語が語られるわけです。
 戦車のかわりに戦象を導入してしまったインドシナ半島の王国の物語。一つの沼を巡って延々としょうもない戦争を続けた南米の小国の物語。アフリカの革命勢力に派遣されて現地人の作ったポンコツ飛行機を操縦することになってしまったスラブ娘の物語。西洋かぶれの殿様が巨大な大砲を据え付けてしまった幕末の下北半島の物語。
 あれれ?そういえばこんな史実があったような?なかったような?と思いつつ読み進めていけば、半分は作者の術中にはまったようなもんです。多くは戦争をモチーフにしてはいるのですが、そこにあるのは、どうにもばかばかしい事態にやけに熱心にかぶりついてゆく人間たちのシチュエーションです。戦記と銘打ちつつも、単なる勝った負けたの国取り合戦の物語と一線を画す点は、そこにあるのではないかと思います。率直に言って戦争物にはあまりなじめないセガワが、ものすごい勢いで読破してしまったぐらいですから。
 これらを次々と展開させる速水さんの妄想力は、ただごとではありません。ここでは想像力ではなく、敢えて妄想力と言ってみたいんですが。……失礼でしょうか、スミマセン。


 絵の魅力についても、ぜひ書いておきたいところです。
 速水さんの絵というのは大変に独特で、その独特のデフォルメというのはあんまり類例がないんじゃないかと思います。なんというか、当方は絵のシロウトなので的外れを覚悟で書いてみますが、どんなものを描くにしても、それは速水流のデフォルメの中に落とし込まれるのですよ。やたらに骨張った兵器や車でも、さまざまな人種でも、歴史上の人物でも、それがいったん作者の描線に取り込まれながらその本体を失っていない点は、見事としかいいようがありません。ほかの作者を引き合いに出すのは失礼に当たるかも知れませんが、鳥山明さんとか竹本泉さんなんかのやり方にちょっと似たものを感じるのですが。
 特に人物の描写はセガワのお気に入りで、マレー半島あたりの戦争マニアの軍人とか、ウズベク出身のソ連兵とか、南米の小国の独裁者とか(どことなくイタリア系っぽいなあ、などと想像させるところがまたすごい)、「あーこんな感じの人がいそうだなあ」と思わせてしまう説得力がやけに強いのです。デフォルメと説得力というのは、実は両立する概念だと言うことに気付かされましたね。逆に言えば、いかに「リアルな」絵柄であっても、それが対象の特徴を巧みにすくい上げるものでなければ、写実的であるという以上の説得力は出ないのでしょう。
 また、これも絵の魅力としては少々伝えづらいのですが、絵の細部が素晴らしいのですね。描き込んでいる、と言えばその通りなのですが、そのディティールがとことん生き生きしている。一個一個の小物に、なにか物語を想像させるものがあるわけです。雑然とした部屋とか、食堂にたむろする群衆とか、へんてこな建物とか、こういうのをやけに楽しげに、しかもものすごく説得力を持って描いてしまうあたり、作者の真骨頂だと思います。モブ(群衆)シーンをこんなに楽しげに描ける漫画家さんって、なかなか希有ではないでしょうか。
 セガワは海外旅行マニアであるので、まあ世界のあちゃこちゃでいろんな風景を目にしているわけですが、例えばルーマニアの田舎のバスターミナルと来てはチャウシェスク時代の豪壮趣味を反映しているのか、やたらにだだっ広くて天井が高くて、真ん中にぽつんと一個達磨ストーブが置いてあるばかりの寒々しいところにスカーフかぶった大ぶとりのおばちゃんたちがひしめいていたりするわけです。また、アンダルシア山中の村と来ては山の斜面にひしめく白壁の家々を見上げるところに一本のオレンジの木が植わっていて、その木陰にちっちゃなバーが昼間からサングリアを出していたりします。そんな風景が、この本を読んでいるとまざまざと蘇ってきます。絵の描けないセガワの、視覚的な感興を思いきり呼び覚ましてくれる、そんな作用が速水さんの絵にはあるようです。


 ちょっとだけ書く側の視点で話をしますと、セガワもいろいろとウソ話をこしらえるのが大好きで、そういう話をずいぶん書いてきました。以前は小説の丸ごとがウソ話で、独立間もない中央アジアの小国で医者とハンガリー人の青年医師が延々と語る話とか、ロシアと思しき片田舎で収容所から帰ってきたチェロ弾きの話とか、東南アジアと思しき屋台の料理の話とか、なんというかその、分類に困るし説明もしづらいような話ばかりなのですが、これは面白くて仕方ない作業でした。
 さすがに今はちょっとそういう色合いが薄まったものの、ホラ吹きの血は拙作にちょっとずつ顔を覗かせています。まあ野暮だからいちいち書きませんが、「チューバはうたう」のアレとかコレとか、「飛天の瞳」のアソコとかアノアタリとか。ウソとホントを適度にブレンドするのがコツですね。
 やっぱり、ウソを書くのって本当に楽しいことです。本書を読んで、しみじみとそう感じました。
 ……変ですかね。


 なお、本書でお気に入りの話は、メキシコで飛行教官になってしまったイタリア軍将校の話「バトル・オブ・テキサス」、東南アジアの貧乏国家が三輪トラックを改造して一個師団を形成し、あげくイラクにまで出陣してしまう話「装甲三輪車伝説」あたりです。
 ちょっとファンタジーの色合いが混じりますが、「海底戦艦パンタグリュエル」も実にいい話ですよ。おデブで狡猾な捕虜の潜水艦長と、貴族の娘にしていろいろと無茶をなさる海底戦艦艦長のラファリエール大佐の掛け合いが楽しい一作です。最後のオチがまた素敵で。ラファリエール大佐萌え(笑)。


 ともあれ、この素敵な本が世に出たことを、心から喜びたいと思います。
 面白いですよ。
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2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
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