セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

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 リバー・ダンスの公演を見てきました。
 アイリッシュ・ダンスをベースにした舞台作品と言うことで、率直に言って期待半分、不安半分だったんですよ。ハンパにショウアップした、派手派手しいだけのものを見せられたらいやだなあと思って。


 大当たりでした。
 なんか見ていたら、泣けて泣けて仕方なくて、なんか意味も分からずにボロ泣きしてしまって困りました。ダメだ、どうも俺、アイルランド好きすぎる。まあ同行した人も何故か分からないけど泣けてきて困ったって言っていたので、素晴らしい力を持った舞台であるには間違いないんですが。
 そんなわけで、まず舞台の感想よりも先に、アイルランドについての個人的な思い出を書いてしまおうと思います。アイルランドにとっても、こんな極東の片隅で勝手に片思いされるのはどうだろうかと思いますが。


 アイルランドに行ったのは19歳の時です。初めてのヨーロッパ旅行でした。
 最初に行く欧州としてはかなり珍奇な選択だと思うのですが、これはたしか、中学校の時に読んだ深代淳郎さんのエッセイの影響だと思います。朝日新聞の記者にして素晴らしい名文家であった深代さんが世界の文学作品の舞台を訪ねる趣向のエッセイが載っていたのですが、その中の一つがジョン・ミリングトン・シングの「海へ騎りゆく人々」でした。
 ヨーロッパの西のはしっこの、更に西の果てのアラン諸島です。なんでそんなところにそこまで心惹かれたのかよく憶えていませんが、大学に入ってシングの戯曲を読んで、ついでにジェイムズ・ジョイスの短編集なども読んで、心から期待に満ちあふれてでアイルランド渡航を決めた覚えがあります。
 もう一つ、渡航に前後して泥縄式にアイルランドの歴史や文化を勉強したのですが、ここでようやく無知な東洋人はアイルランドという国の奥深さの一端に触れました。それまではなんとなく「イギリスのオマケ」と言ったような非常に失礼な印象しかない国でしたが、実はケルト文明というヨーロッパ最古の文明の一つを擁し、少数になってはしまったけれどゲール語というケルト系の言語が話し、イングランドというでかい文明を抱えた国のかたわらでアイルランドはひっそりと独自性の高い文化を守ってきたようです。
 これは最近知ったことですが、例えばアイルランドはローマ帝国が崩壊してからの欧州大陸の暗黒期、ケルト語に翻訳した教典でカソリックの伝統を保持し「詩人と学僧の島」と呼ばれていたことなど、今日からは想像しにくい歴史かも知れません。もっともこのことは、サンスクリットの仏典をチベット語に翻訳して仏教の信仰を輸出したチベットの吐蕃王朝に似たものがあり、世界史の中ではこのような人間の営みが実は文明を連鎖させているのかも知れませんが。
 もちろん現在でもアイルランドの、特に音楽と文学のレベルの高さはちょっと驚くべきものがあります。人口400万人足らずの国でこれだけ世界水準の仕事をした人間が続出した国というのは珍しいんじゃないでしょうか。なにしろ、ノーベル文学賞だけでもイェイツ、ショウ、ベケット、ヒーニーと4人もの受賞者を輩出しているのですから。受賞には至らなかったにせよ、ジョイスというとんでもない怪物も居るし。


 そうして訪れたアイルランドは、羊とジャガイモとビールに満ちあふれた、実にのどかな国でありました。特にかの地のジャガイモ原理主義と来たら瞠目すべきものがあって、どんな料理を頼んでも
"Boiled? Mashed? Baked? Or fried?"と、必ずジャガイモが付くことを前提にジャガイモの食い方を聞いてくるのでした。「要らない」という選択肢はないようです。
 ジャガイモ好きの自分としては大変嬉しかったのですが。そしてギネスは言うまでもなくうまい。当然のごとく、魚や牡蠣は大変に美味しい。
 あの破滅的な味覚を誇るイギリスのすぐお隣とは思えないほど料理の美味しい国でした。


 ろくすっぽ英語も喋れなかった当時(まあ今でも大して巧くはないのですが)、観光シーズンも外れた初春のアイルランドを半月ほどもうろつき回ったのは、本当にかけがえのない経験だったと思います。
 思いきり雨に降られながらアラン諸島を自転車で巡り、ゲール語の会話を耳にする幸運に恵まれました。ガルウェイのユースホステルのベッドに寝転がりながら中上健次「千年の愉楽」を読んでいたら熱心な電設マンにカソリックの布教をされ、高貴なる血の淀みとヨーロッパ二千年の宗教的伝統とが一瞬交錯する幻惑されるような体験をしました。ダブリンのレコード屋でアイリッシュミュージックのCDを買い、CLANNADという素晴らしいアーティストを知りました。
 しかし、結局のところ、このアイルランド旅行のいちばんの収穫というのは、ドミナントな文化の辺縁にある文化に興味を抱く眼差しだったのだな、と、今になってみれば思います。
 そもそも、いちばん最初の海外旅行先だった新彊ウイグル自治区は中国とチュルクの二重の文化的辺縁であったわけだし、そういういわばエッジに生成する文化というものに惹かれてその後の旅行を繰り返したと言ってもまあ間違いではないでしょう。東欧諸国や中央アジア、東南アジア、沖縄、こういった巨大な文化圏の周辺に位置するところで、あんがい人間はしぶとく自らの文化を育てようとするようです。
 沖縄やバルト諸国に芳醇で独自な音楽が生まれ、ポーランドやチェコやセルビアに深い文学的伝統が息づき、中央アジアやカフカスに独特な都市建築が生まれるみたいに。


 余談ながら、アイルランドは九〇年代からの投資を呼び込む政策が見事に功を奏して「ケルトの虎」と形容されるほどのめざましい経済発展を遂げ(これは英語話者の人材が潤沢だったことも大きいらしい)、かつてはポルトガル、ギリシャと西側諸国のドンケツ争いをしていたのが嘘のような立派な国になっちゃった、らしいです。
 嬉しいような悲しいような。
 じめじめ降る雨に濡れる羊羊また羊を眺めながらどこまでも続くアイルランドの丘陵をバスで走った、あの風景が残っているといいんですけど。
 夕方ッからギネスビールでイイ感じに煮染められてフィドルに合わせて大声で歌ってサッカー中継に熱くなってるおっちゃんたちが元気でいるといいんですけど。
 日曜日になれば泣きそうなぐらい開いている店がないかわりに言葉通り町中の人が教会に集まって来てて、女子高生が教会建設のために街頭募金してる地味で熱心なカソリックの国が毒されてないといいんですけど。


 あああやっぱりアイルランドの話だけで長大になってしまった。
 リバーダンスの感想は次回書きます。
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強制的に監禁虐待されている新井泉さんを移動監獄から救い出しましょう。

四川省の地震で中国の漢族公務員が莫大な義捐金や援助品を横領してふところに入れている。彼らは、植民地化した日本で何の罪もない新井泉さんをむりやり監禁虐待して、新井泉さんの人生も健康をも破壊した。手先になっている日本人と結託した残虐な強盗殺人鬼どもは、ウイグル人やチベット人やモンゴル人らを何千万人も大量虐殺してきた。彼らは悪魔よりも邪悪な最悪の連中である。新井泉さんの人生を強制的に破壊した凶悪犯は中国犯罪政府にすり寄って北京オリンピックに招いてもらおうとしているが、こんな大量の血に塗られたオリンピックなど開いてはならない。そもそも宗教者まで大量に惨殺している中国人は神の敵そのものである。もともと中国は五胡十六国といわれるようにたくさんの国々が分立していたのであるから、ウイグルや東トルキスタン、チベット国、モンゴル国など多数の国々に分かれているのが自然の姿である。これからもそういう時代が来るのは当たり前で、迫害と大量虐殺によってまわりの民族を絶滅させようとする漢族を絶対に許してはならない。

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2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
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