セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

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今回旅先で読んだ本です。


・アントニオ・タブッキ「レクイエム」
 まあご当地ものと言うことで。
 例によってタブッキの筆致は軽妙で軽快、まるで飽きることなくひとつらなりの物語を読むことができました。ただし、読後の印象としては「供述によるとペレイラは……」よりは、断然「インド夜想曲」に近い。正直なところ、この軽妙さが充分に焦点を結びきらないまま物語は結末へとなだれ込み、ある種のノスタルジアのような感情に紛らされてしまった印象も受けました。調べてみたら本作は、「ペレイラ」よりも前の執筆でしたね。
 こうなると「フェルナンド・ペソアの最後の三日間」も読んでみたいところですが、古書でけっこうな値段になっちゃってるんだよなあ……。

レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
(1999/07)
アントニオ タブッキ

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・井上光晴「象を撃つ」
 これはまだ半分ぐらいしか読んでいないのですが、少々時代を感じさせる生硬さにくたびれる以外は(非常に迂遠な会話とか作為的な人名とか)、興味深く読んでいます。しかしそれにしても、読んでいて寒々しい気分になって仕方のない小説です。これは小説の出来映えとは関係なく。このかさついた人間関係の物語を最後まで読み通せるかどうか、ちょっと今のところは自信がありません。

象を撃つ (1970年)象を撃つ (1970年)
(1970)
井上 光晴

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・パウロ・コエーリョ「星の巡礼」
 拙作「百万の星の孤独」で、赤瀬川怜仁さんが読んでいた本。改めて読んでみましたが、こういう小説を読んでいる女子高生ってなんというかその、実際のところ扱いづらい娘であるような気がいたしますよ(笑)。こういう探求はもうちょっと年食って体にガタが来て、人生への不安がもっと具体的な形になって立ち現れてからでいいんじゃないの、と、今なら彼女に言ってあげたい気分になります。

星の巡礼 (角川文庫)星の巡礼 (角川文庫)
(1998/04)
パウロ・コエーリョ山川 紘矢

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・ジャン・エシュノーズ「チェロキー」
 ピカレスクやフィルム・ノワールのテイストをふんだんに盛り込んだ物語。こういうアプローチの仕方は嫌いじゃないです。今年初頭に読んだミシェル・リオ「踏みはずし」がどうしても思い出されたのですが、こういうアプローチが今のフランスの小説には結構あるんでしょうか。
 ただし本作、探求の物語と言うにはちょっとだけ軽いような気がします。最初はベケット「マーフィー」とかピンチョン「競売ナンバー49の叫び」あたりを想像していたのですが、探求することじたいの混乱や痛みみたいなものが感じられる小説ではありませんでした。さてそうとなると、ちょっと感想が述べにくい小説ではあります。

チェロキー (新しいフランスの小説)チェロキー (新しいフランスの小説)
(1994/11)
ジャン エシュノーズ

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・今福龍太・沼野充義・四方田犬彦 編「怒りと響き」
 15年ぐらい前に出た世界文学のアンソロジー。ボウルズとかルシュディとかジョナス・メカスとか、旅先で読むのに実に面白い作品が揃っていました。しかしこのピエール・ギヨタって人はすごいなあ(なんとなく、訳すの大変だっただろうなあとも思いました)。こういう作家が読者を獲得できてしまっているフランスという国も妙に懐が深い。このシリーズ、他の巻も探してみようかな。

世界文学のフロンティア〈6〉怒りと響き世界文学のフロンティア〈6〉怒りと響き
(1997/03)
今福 竜太

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フェルナンド・ペソア「ペソアと歩くリスボン」
 これもまあご当地モノなんですが、なにが凄いかってこの七〇年以上前に書かれた文章に沿って、ほとんど現在のリスボンも歩けてしまうというところ。ポルトガルという国の強固な停滞を垣間見る気分にもなれます。

ペソアと歩くリスボン (ポルトガル文学叢書)ペソアと歩くリスボン (ポルトガル文学叢書)
(1999/06)
フェルナンド ペソア

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・倉橋由美子「迷路の旅人」
 第二エッセイ集と言うことなのですが、本当に楽しく読めました。旅行中、心身ともに疲れ切っているときにこういう正確で辛辣な文章を読むと、ちょっとだけ頭の中の霧が晴れるような気分になります。例えばジョン・アップダイクについて書かれた文章、執筆時が一九七〇年なのでこの作家についてはかなりはやい時期の日本語での紹介と言うことになりそうですが、例えばこんな部分、ちょっと長くなるけど引用します。

(以下引用)
 フォクシーはピエットと寝るつもりでコンドームを持ってきたもので、避妊用ジェリーの新しいチューブをコグズウェルのドラッグストアで買ってきたと打ち明けた。

 これもよく磨かれた清潔な便器の中を見るような文章で、またこういうことを打ち明ける女の気持ちにはほほえましいものさえ感じられるが、私ならば男にこんなふうに打ち明けるかどうかは別として、小説の中にこれを書かないことだけは確かである。
(引用終わり)

 アップダイクは日本でもかなり広く読まれているアメリカの作家だと思いますけど、なかなかこういう意見を読むことは不勉強のせいもあって、自分にはなかったと思います。このほかにもこのエッセイには、「書かれること」「書かれないこと」を厳しく弁別し、ある種の不用意なあけすけさを厳しくいましめる文章が随所に出てきて、正直なところ物書きのハシクレとしては身のすくむような思いをしたこともしばしばでした。
 エッセイとは個人的な経験といっときの感情とひとつまみのイイ話を適当に混合したものなどでは決してないのだという、きわめて当たり前のことを再認識させてくれる、おっかない文章で満ちております。お勧めです。


 なお余談ですが、倉橋さんが今から三〇年ほど前、ポルトガルに二年ほど滞在していたことを巻末の年譜で知って本当にびっくりしました。根本敬さん言うところの「偶然という名の必然」なんでしょうか、これは。
 
迷路の旅人 (1972年)迷路の旅人 (1972年)
(1972)
倉橋 由美子

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2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
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