セガワブログ

小説家、瀬川深のブログ。

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 J.M.G.ル・クレジオがノーベル文学賞を取りましたね。めでたや。すでに大御所の作家だけあって、かえって意外な感じがしましたけど、嬉しいことです。好きな作家なんですけど、これまで3、4冊を読んだだけで、決して熱心な読者とは言い難いんですが……。
 それにしても恥ずかしながら、読んだことのある作家が取ったのは1999年のギュンター・グラス以来かも知れません。昨年のドリス・レッシングは、古書店で見かけてなんの気なしに買ったらその一週間後に受賞が決まってえらく驚いたという偶然を経験してはいるんですけどね。今年は旧ソ連圏の作家かなあとか、個人的には大好きなイスマイル・カダレが取ってくれると嬉しいなあとか、そんなことも考えていたんですが。


 ル・クレジオについての忘れがたい思い出は、大学1年か2年のころに「愛する大地」を読んだことです。なんで当時読もうと思ったのかさっぱり覚えていないんですけどね。寺山修司の本に紹介があったか、はたまた徒手空拳で海外文学を読んでいたときフランスの現代作家と言うことでフィリップ・ソレルスなどと一緒に紹介されていたのだか(*)。まあともかく、文学の素養が皆無に等しい若造が読んでなにかが分かるような作品ではなかったんですが、とにかくその型破りな小説の形態に驚いたことは今でもはっきり覚えています。自伝的な語り口を取っているんですが、あまり自意識過剰になる出もなく、短い章立てがどんどん連なっていく、文体もいろいろ実験している。こういう小説もあるんだなあ、と、当時かなり新鮮に感じたものです。じゃあ俺も真似してみるべえ、と考えて下手くそなフラグメントをいくつも積み重ねたあげくに挫折したのも少々甘酸っぱい思い出ですがw。当時「調書」も古書店で発見して買ったはいいんですが、こちらは途中で挫折しちゃったんだったかな。
 それからずいぶん時間が経って、10年ぐらい前に「海を見たことがなかった少年」を読み、これはずいぶんすっきりした美しい短編集で、今でもお気に入りの作品集です。のちになって、表題作を原作にした"MONDO"という映画が作られましたが、これも素晴らしい出来映えだったことを覚えています。そしてまた時間が流れ下って、5年ぐらい前に「偶然」を読みました。老いた映画監督に混血の少女の航海。これはどこか切ないぐらいに美しくて感傷的で、それでいて生老病死がきちんと詰め込まれている、端正な味わいの小説でした。
 お粗末ながら、自分にとってのル・クレジオの経験と来てはこの程度のものです。そんなわけなので、ル・クレジオについて云々するような素養は自分にはないのですが、一つだけ言えるとすれば、この人の小説にはどこか語りかけようとする意思みたいなものを感じるということです。さまざまな問題意識を持っていることは感じられるのですが、問題に対して中立的であろうとするポーズを取るあまり、どこか冷笑的で他人事みたいな物語ばかりが綴られてゆく現代作家にありがちな印象をこの人の作品から受けたことは(自分の狭い範囲の経験では)なかったように思います。そこが時には少々感傷的にも感じられ、そして非常に人間的な態度にも感じられる理由なのだろうなと個人的には思っています。
 ともあれ、受賞を機会に旧作が復刊されることがあるかも知れませんので、なにかまた読んでみようかなという気になっています。幸いなことに、邦訳には恵まれている作家ですし。

(*) こう書いたあとに気になって調べてみたんですが、どうも寺山修司「地平線のパロール」に感化されて読んだようです。15年ぶりぐらいに書棚から引っ張り出して再読してみたんですが、寺山修司の説明してるんだかしてないんだかよく分からないんだけど無闇にこちらの気分を駆り立てる、あの独特の文体にずいぶん感化されたことを少々の含羞とともに思い出しました。ああもう、なんか甘酸っぱい気分になるなあもう。


 なお、まったく個人的なことなのですが、昨年太宰治賞を頂いたあと、一週間ほどして短い小説を書きました。小冊子にして受賞に際してお世話になった友人知人に配ったきりにしていたのですが、中にちょっぴりル・クレジオの作品をリスペクトする箇所がありましたので、これを機会にネットでお披露目しようかと思います。
 ご興味おありの方は、こちらからどうぞ。「未発表作品『Cape Cod』をこちらで公開します」のリンクからpdfファイルがダウンロードできます。


 追記。ル・クレジオがある時期からメキシコの荒野を何度も訪れるようになったという趣旨の記述をどこかで読んだ記憶があるんですが、どうも引用元が思い出せません。真木悠介「気流の鳴る音」かなと思ったけど違うようです。今福龍太の本だったかな……。なんか気になるので、ご存知の方がいらっしゃいましたらご教示下さいませ。


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2007年、「mit Tuba」で
第23回太宰治賞受賞。
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